長くて大きい手に、白と黒は連鎖反応を起こす。
長くて大きい手に、思考と理性がぶつかりあう。





[  を  て  に 。 ]





人間の友達がいない。
私の友達はこの黒と白だけ。


「ピアニストって感じだな、。」
「また宍戸さんですか。」


人間の友達なんだか何だか知らないけど、
たぶん唯一の人間の友達?、それが同じクラスの宍戸亮さん。
宍戸さんは200人もいるテニス部員の中の正レギュラーだ。
先日、レギュラーに落とされたらしいけどまた復活したようだ。
長い綺麗な髪が短くなってるのが、彼曰く、その証しらしい。


「んで、お前の発表は何時からなんだよ?」
「それ、昨日も聞いてました。」
「そうだったか?」
「そうでしたよ。」


宍戸さんは、適当な椅子に座ってピアノを弾いてろと言う。
私は鞄から楽譜をとりだしてそれを置く。
夜想曲、そう書かれた楽譜。夜想曲というのはつまりあれだ、ショパンノでクターン。
その中でも夜想曲の遺作。それは私の一番好きな曲。
今度の発表会ではそれを弾く事になってる。
発表会と言っても、学校主催の音楽会だ。
各クラスの代表数名が、発表するというのだ。


俺、結構その曲好きだぜ。
宍戸さんはそう言うと、制服のポケットからくしゃくしゃになった煙草を取り出す。
そしてそれを銜えてライターの火をつける。
そういえばアレだ。宍戸さんて煙草を吸ってる人じゃなかった気がする。



「宍戸さんて煙草吸うんですか?」
「最近な、吸い始めた。ちなみに跡部の影響。」
「あぁ、あの俺様っぽい人ですか。」
「お前、んな事言ってると跡部ファンに殺されるぞ。」
「別にイイですよ。命の1つや2つ。」
「いや、命は1つだろ。」

宍戸さんはそう言って苦笑した。
私は指先をホッカイロであたためてピアノの鍵盤に指をおいた。
冬場にピアノを弾くのは少し寒い気がする。
すぐ指先がジンジンしてしまい、非常にピアノが弾きにくい。
ポーンとゆっくりと音が鳴る。





「空気に溶けてるよなぁ、の音。」





宍戸さんが微かに呟いた。
私は一心不乱になって旋律を歩く。
いっしんふらん、まさにその通りだ。
だから、あっという間に曲は引き終わる。
旋律を引き終えた私を見た宍戸さんはゆっくりと口を開く。


、もっと上達したいって思うなら監督に教えてもらうってどうだ?
 ここまでくるのに独学だったろうお前。」


口から白い煙りをだして宍戸さんが言う。
黒いピアノに宍戸さんが写る。


「榊先生ですか…。あの人、忙しい人でしょう?
 教えを乞うなんて無理だと思いますよ。」
「俺から話し付けてみるからよ、1回は専門の人に見てもらった方がイイと思うぜ。
 、案外これで食ってける可能性あるだろうし…。」
「これで食ってけるわけありません。私のひく音はただの娯楽。
 娯楽以上の何ものでもありませんよ。」


私は自嘲じみた笑いを浮べてみせる。
宍戸さんは、正直考え方が甘いと思う。
私の音で将来食べていけるわけがないって事を分ってない。
それは他の音楽家、ピアニストの音のすごさを知らないから言える事だ。
無知っていうのは時に残酷だ。





「馬鹿かお前。お前にとってコレが娯楽なわけないだろ。
 ピアノが好きで好きでたまんねぇんだろ?」





宍戸さんは私の頭を何かで叩いた。
それは紙だった。


「何ですかソレは。」
「…コンサートのチケット。」
「は?」


私は宍戸さんが何を言いたいのか分らなくなって首を傾げた。
髪がサラサラと流れる。
宍戸さんは少し顔を紅くして言う。


「ピアノの全国大会みたいなやつだってよ。
 自分の耳で確かめてこいよ。お前のピアノが何処まで通用するか聴いてこい。」


何故か、妙に臭い台詞に聞こえてならなかった。
自分のピアノが何処まで通用するか、なんて聴かなくても分ってる。
けれど、宍戸さんがあまりにも必死なので、そのチケットを受け取らずに入られなかった。
私はチケットを受け取る。
きっと私は、全国の音を聴いたらショックで立ち直れなくなるだろう。
けれど宍戸さんは、それでも私のピアノはすごいと言ってくれそうだ。



「…チケット、2枚ありますけどこれは?」


私は2つあるチケットを眺めてそう聞く。




「誰かと行ってこい。彼氏とかいんだろ?」
「彼氏…さすがに彼氏はつれていけません。重たいですから」
「は?重たいって何だよそれ。」
「…私の彼氏は当然のことごとくピアノです。だから連れて行けません。」
「そりゃぁあたりまえだ…」



宍戸さんは、ははっと苦笑した。
私も同じように苦笑して、小さく息を飲んだ。









「…よかったら、一緒に行きませんか」





全身の熱が、顔に集まった気がした。








2004/12/27
 ピアノの話し。ピアノが好きです。

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